先ず「表装」とは何かということを定義しなければなりません。
『広辞苑』で「表装」ということばを引くと「表具」に同じとあります。そして「表具」の項には、『布帛また
は紙を貼って、巻物・掛物・書画帖・屏風・襖などに作り上げること。表装。装（そうこう）』とあります。
今では、この定義で一般的理解を得ることが出来ますが、実のところ、このような結論が出るまでに
はずいぶん長い年月を要したのであります。
この解説にある『表装』ということばも、今では一般的に『表具』の別称として通用していますが、歴史
的呼称としては、昭和50年代に入ってから正式に『表具』をあらわす名称として使われた経緯がありま
す。
即ち、昭和42年に表具技能士の検定制度が確立し、昭和54年に「紙・布・のりを使って作り上げる作
業を『表装』と総称し」と定義されました。
これがおそらく公的文書に『表装』という名称が使われた初めだろうと思います。
それまでは、『表装』のことを『表具』『掛字』『本尊』などと呼ばれていました。
また、『表具』とよく似た、そしてかなりの部分でその技術的内容を同じくする技術に『経師』という世界
があります。
現在では「掛け軸」は表具師が行い、巻物は「経師」が行うという役割分担がなされていますが、表具
が変遷する歴史の中で、「表具」と「経師」は道義に扱われていたときがあります。
先程の、「広辞苑」の定義の中に『装』(そうこう）ということばが出ていますが、『装』は『装飾』を意味
し、『』は『紙を染める』ことを意味します。
当時の経巻に使用する紙は、主に『黄檗』の木の皮からとった染料で染めたことから名づけられたもので
す。
因みに、他にも「藍」「紫」「丁子」などでも染められました。これらは皆防虫効果があったためです。
そしてこの『装』の仕事をする人を『装師』と呼びました。
『表具』が発祥した頃において、装師は、経巻にかかわる仕事をしていました。経巻の紙を染め、それ
を表具する仕事まで一貫して携わっていました。
これ以後の歴史の中で、「表具」にかかわる呼称が、様々な仕事の概念と結合したり分化したりしなが
ら複雑な経緯をたどることになります。
次章においては、表装の歴史を概観したいと思います。
（次頁に続く）
（前頁に戻る）