（掲載作品はすべて鎌田敏輝製作）
（掲載作品はすべて鎌田敏輝製作）
それでは「民芸表装」の具体的事例を見ていきたいと思う。
＜民芸軸１＞（藍・柿渋紙）は、伝統様式（大和表具）には見られない形状をしている。
強いて求めれば、「文人表具」の『太明朝』仕立てに似ているが、その範疇にも入れられない。
一文字と中廻しの陰陽を逆転したようなデザインになっている。
＜民芸軸２＞（柿渋紙）も同様のパターンである。
棟方志功作「愛染明王」の表具は＜民芸軸4＞（藍紙の濃淡による『四分割法』のパターンである。【民芸表装の類型については後に述べる。】）
雑誌「工芸」第118号もこれと同じデザインになっている。
棟方志功の『茶韻十二ヶ月の内・基督』（大原美術館蔵）の軸装は、<民芸軸５＞のパターンである。
初めてこの作品を見たときの感動を今でも忘れることが出来ない。
<民芸軸５＞は、それと同じ軸装を施したものである。（本紙は、宮沢賢治辞世）
伝統表装には伝統様式（大和表具がその代表である）があるように、民芸表装にも民芸様式というものが考えられて然るべきであろう。
これだけ大和表具とは異なる表装様式を確立したにもかかわらず、今までその様式について、それを体系づける人がいなかったということは誠に残念なことである。
それは、ひとつには、民芸表装というものが単なる『宗悦好み』という世界で解釈されてしまったということと、表装工芸そのものが一個の伝統工芸という視点であまり重要視されていなかったということがあると思う。
実際、柳宗悦においても、製本工芸までその工芸的美の開顕作業が進みながら、表装までその思索の後が明らかにされなかったのは誠に残念に思う。
表装工芸は、かけがえのない日本を代表する伝統工芸であり、民芸様式は、今後の日本独自の表装様式を確立するに当たって大いに示唆を含むものである。
そしてここに、民芸思想の何たるかを訪ね、数多くの民芸表装の遺物を訪ねれば、その類型も自ずから見えてくるということを信じてささやかながら「民芸表装」の類型化の第一歩を踏み出したいと思う。
ただ、私はまだ納得いく程、民芸表装の実際には当たっていないので、これはまだ自分のノート的な段階を出でない。
今後大幅に訂正することもあり得るので、その点ご了承頂きたい。
さて、伝統表装の様式は、衆知のごとく中国の明・清時代の傾向を色濃く残している「文人表具」と、所謂「大和表具」に分かれ、今日では「大和表具」が主流になっている。
それは、東山時代に相阿弥という人が様式化し、真・行・草の三体を確立したのである。
この分類は、本紙の内容、傾向、ランクによって表装式をかえるという立脚点に立っていた。
そこにそれぞれ使用する裂地を取り合わすという要素が入ってきてさらに複雑化するのである。
「民芸表装」を類型化する際にもいろいろな観点が考えられるのであるが、先ずデザイン面からいうと、自分は、どのような形で画面を分断しているかという視点を考えてみた。
これはむしろ類型化の初歩的提是ではあるけれども、「単純・簡素」を旨とする「民芸表装」にはぴったりの視点ではないかと思う。
次に色の取り合わせを考えねばならない。
先に民芸の色について少々述べたけれども、この分類によれば、そのそれぞれの色を相互に取り合わせるのである。
そのバリエーションは、相当あるのでここではそのすべてについては述べ得ない。
ただこの分類は、あくまでも使用する素材、色とパックになっているということを忘れてはならない。
また、紙表具と裂表具の別も考えなければならない。「民芸様式」においては、『紙表具』を上とするのである。
それでは「民芸表装」の類型を次に紹介する。